2009/06/28

ケーブルテレビ メディアの最後の砦

エンターテイメント業界が仕掛けた無料動画配信のHuluの成功は、無料文化はびこるネットから身を守るための施策となるかどうか、まだ全く見えていない。

無料の映像コンテンツがオンラインで視聴可能になることで困るのはケーブルテレビだ。ケーブルテレビは複数のチャンネルをパッケージで契約者に提供しており、契約者がチャンネルを選択して月額料金を柔軟に変えることができない。よって無料のコンテンツがウェブで見ることができるなら、契約解除するひとも増加する。


ケーブル契約者が支払う月額料金はエンターテイメント業界にとって最も大きな収益源で、ケーブルテレビ会社がオンラインの無料文化に浸食されるならば、コンテンツを供給するエンターテイメント業界も一緒に浸食されることになる。

News Corps、NBC、Walt Disneyが資本参加するHuluに対抗するかたちで、Time WarnerとComcastが合意し、「TV Everywhere」構想を立ち上げた。ケーブル契約者にのみ、オンラインで無料でケーブルテレビのコンテンツを視聴できるようにするというものだ。

ケーブルテレビ会社がコンテンツ業界に支払う額は莫大だ。ComcastはESPN局を放送するのにDisneyに年間10億ドル、全ケーブル会社と衛星放送を合わせると220億ドル(約2兆2000億円)をコンテンツ制作側に支払っている。

Time Warnerは人気ケーブル局のHBO、TNT、CNN、WarnerBros、更に制作会社を保有している。現在のビジネスモデルを守ろうという気持ちが強い。

コンテンツがオンラインへと流れる一方で、逆の自体も起きている。カナダのAux TVというオンラインチャンネルがケーブル局になるというものだ。アメリカでもTMZという有名人ゴシップサイトが大成功してケーブル局になっている。

オンラインでは誰でも始められるし、誰も止めることはできない。よってテストとして始めるプラットフォームとして、オンラインは適している。

新聞や音楽がすでに無料文化に飲み込まれたように、映像コンテンツもウェブに飲み込まれるのか。ケーブルテレビが最後の砦として試行錯誤している。

2009/06/23

海賊の親玉

Christian Engstrom、今月EU議会の議席を勝ち取ったスウェーデンの海賊党ののリーダーだ。50代でとても海賊には見えない。両親ともプログラマーのコンピューター一家に育ち、Engstrom自信も特許事務所で使われるソフトウェアの開発を行った。

そのEngstromの公約は特許権の撤廃、著作権の期間を3年ほどに短縮すること、そしてネットプライバシーの強化だ。海賊党の支持者は主にスウェーデンの30歳以下の男性で、学生の間では海賊党は支持率で第1党だ。4月にPirate Bay運営者の4人に有罪判決が出た後、党員数は3倍増した。

「海賊党というネーミングは最初バカげてると感じるが、誰にとっても意味のあるもの。」

海賊党にとってのダース・ベイダー(アンタゴニスト)とでも言うべき人物がいる。Anti-Piracy OfficeのHenrik Pontenで、軍隊スタイルの短髪のこの人物によれば、「普段極右思想の反社会的な若者がこの選挙では海賊党に投票した」らしい。

「海賊は自分たちのことを被害者と見るが、その実コンテンツ産業に危害を加える加害者でもある。」

政治家はインターネットのことに関しては無知であるため、圧力団体に容易に影響される。こうした政治家が問題で、直接投票者に訴えるために海賊党を立ち上げたと設立者のRick Falkvingeは言う。

海賊党はスウェーデン以外でも支持率を上げている。ドイツの海賊党は先のEU議会選挙で投票者の1%近くを確保し、ベルリン地区ではその支持率は5%だった。

2009/06/21

ジェイミートーマスに2億円の支払い命令

全米初のファイルシェアリングの陪審員裁判として注目されていたジェイミー・トーマス裁判の再審の判決が出され、陪審は24曲のファイルシェアリングに賠償責任を認め、トーマスに192万ドルの支払いを命じた。

2007年10月に最初の判決が出されたとき、賠償金額は22万2000ドルだった。その判決は陪審員への指示が徹底されていなかったとして無効とされた。全米レコード協会は3万を超える個別の訴訟をP2P利用者に起こしてきたが、そのほとんどは数千ドルで和解となっている。トーマスは和解せず、P2P裁判で初めて陪審員を入れた裁判となった。

32歳のトーマスに192万ドルも22万ドルも支払う能力はないし、トーマス自身ももし支払いが可能だったとしても拒否すると発言している。賠償責任を認められた曲ひとつにつき、8万ドルの支払いとなったが、トーマスもトーマスの弁護士も、賠償責任があるとしても法定賠償金の最低額の1曲につき172ドルだろうと予想していた。

トーマスに残されたオプションに自己破産の申請がある。自己破産の法廷では、課された賠償金を無効にするためには、侵害が故意ではなく、且つ損害を加える意志がなかったことを証明できればいい。著作権裁判ですでに侵害が故意であったと判断されているが、音楽レーベルに損害を加える意志があったとは判断されていない。よって自己破産で賠償金が無効となる可能性がある。

音楽レーベルなど権利者が個人を対象に著作権侵害訴訟を起こす場合、この点に留意する必要がある。P2P利用者はダウンロードが違法であると知っていても、業界に危害を加えようとして利用する場合は少ない。

全米レコード協会もその点はわかっているようで、和解の提案を何度もしている。侵害が故意でないならば、トーマスは間違いなく自己破産で賠償を免れる。侵害が故意であったとされたため、自己破産法廷で再度争う必要がある。協会は和解を求めているが、トーマスはどう出るのか。

2009/06/18

違法コピーとコンテンツ製作

P2Pがネットユーザーに無料コンテンツを解放してから、CD売上げなどコンテンツ業界の収益は確実に減少している。それがクリエーターの報酬の減少をもたらし、プロ製作のコンテンツの量が減少し、文化の衰退まで心配される議論もある。


論文によると、アーティストやクリエーターの報酬が確保されるならば、著作権保護の度合いはあまり強くない方がいい。

一回の違法ダウンロードがシングルCD売上げ1枚の損失であるかどうか。音楽業界はいまだ損失であると認識してファイルシェアリングを訴追しているが、論文では無料の音楽が入手できることはむしろMP3形式の音楽の購入を促すとしている。

音楽製作量は実際過去10年で増加している。レコーディングは2000年と比較すると2倍の生産量になっているし、海賊版流通が顕著な韓国、中国、インド、アメリカでも製作された映画本数はここ2〜3年で増加している。

論文は違法ダウンローダーが初めて陪審員裁判に立たされたJamie Thomasの裁判が進行中に発表された。音楽業界も司法も政界も、違法ダウンロードが直接的に収益の損失を招いているという認識で著作権保護強化に乗り出している。

2009/06/17

イギリス政府の答え

改正著作権法が可決成立し、来年1月1日から施行される。違法コンテンツと知りながらダウンロードする行為を禁止しているが、取締りは難しいのではないか。違反者に対する罰則も設けられていない。P2Pでの違法コピーが海外ほどコンテンツ業界を圧迫していない日本でのこうした措置は、注目されていない。

一方海外では、イギリス政府が欧米で侵害の著しいネット海賊版に対する政府方針を、デジタルブリティッシュリポートとして昨日発表した

コンテンツ業界はISPにアクセス遮断の制裁を含む警告作業を義務付けたい。ISPは優良顧客を失うのを恐れてそれを飲もうとはしていない。イギリス政府も、自分の部屋で音楽をダウンロードする15歳の少年を犯罪者にはしたくない。

発表では、政府は違法ダウンローダーへ送る警告書を円滑に進めるための措置を行い、常習者に対してはISPに違反者のデータ転送量を制限させるとし、アクセスを完全に遮断することは避けた。

あるP2P利用者は、クリエーターは音楽レーベルによって報酬を約束されていて、無料のダウンロードで困るのはレーベルの役員報酬の減額のみだと言う。P2Pは音楽を買う前にサンプルとして視聴することを可能にしているとも言う。

反対派のひとりは、違法ダウンローダーは「無料」にこだわっているだけで、倫理的にもよくないと言う。サンプルを提供している合法な音楽配信サイトは存在すると反論する。

政府は発表した措置によって違法ダウンロード行為を70%減らしたいとするが、専門家によれば、もっと厳しい制裁を課さない限り、解決はしないと言う。

2009/06/16

デジタルブリティッシュレポート

フランスで可決したアクセス遮断の制裁を含むスリーストライク法が憲法違反と判断され、フランスが目論んだフランスが布石となって違法ダウンローダー取締りを強化することが適わなくなりそうだ。

今日発表されることになっているイギリス政府の違法コピーへの対処策は、フランスのスリーストライク法の成立で強気になっていたに違いないが、フランスの法律が頓挫したことで注目はイギリスのレポートに集まっている。

と言っても、イギリスはアクセス遮断の制裁は理想的な選択肢ではないという見解を明らかにしているし、EU議会はネットアクセスは基本的人権であるとしている。スウェーデンの海賊党がEU議会の議席を得たし、著作権法の改正を公約とする団体もEU各地で勢力を伸ばしてる。

デジタルブリティッシュレポートの概要は、2012年までに高速インターネット通信をすべての世帯に供給するというもので、今年1月に中間レポートが発表されている。ネット通信は電気やガスのように生活必需となっている背景を鑑み、デジタル社会を実現する方針になる。

レポートはさらにデジタルコンテンツを違法コピーからどう守るかという側面にも言及される。新聞やテレビコンテンツのデジタル化で起こる収益の減少を解決する策のひとつとして、ライセンス費の導入にも可能性として言及されている。

また、ヴァージンメディアとユニバーサルの提携で前進したISPの著作権保護における役割を強化させる方針を打ち出す可能性もある。アメリカの全米レコード協会も個人への訴訟を避け、ISPと協調していく方針を発表している。だがISPにとって違法ダウンローダーこそネット使用の多い契約者で、見返りなしには制裁には応じないだろう。

2009/06/15

ISPの警告書は意味がない

イギリスの法律事務所のWigginの調査によると、ISPから送られる違法ダウンローダーへの警告書に従ってダウンロードを辞める割合はわずか33%でしかない。

イギリス政府は16日にオンラインでの違法コピーに関するレポートを発表する予定だが、その発表の前に調査は行われた。対象は1500人のISP契約者で、もしネットアクセス遮断などの罰則を設けることでその割合は80%に上がると続ける。

オンラインゲームやビデオ視聴をネットの主な行動とするユーザーにとって、ネットアクセスは不可欠な要素で、ネット接続時間やデータ転送量によって月額利用料が増加するとしてもプレミアム料金を支払うとの調査結果も出た。

また、テレビコンテンツのオンデマンド配信の重要も今後は高まり、コンテンツ垂れ流しのテレビ視聴と能動的にコンテンツを探して視聴するオンデマンド配信コンテンツの視聴の区別はどんどんなくなっていくだろうと結論付けた。

昨年実施された調査によると、警告書を受けて違法ダウンロードを辞めるユーザーは70%と出ていたから、調査の信憑性の問題はあれどユーザーの警告に対する免疫は強くなっていると見ていいだろう。アクセス遮断に対して消極的なイギリス政府見解のせいもある。16日発表の結果によって数字は大きく変動すると見られている。

一方でイギリスの多国籍企業のヴァージングループのISPが同社のブロードバンド契約者に無制限で音楽を提供すると発表した。ユニバーサル・ミュージックとの提携で、月額固定料金で無制限音楽ダウンロードを可能にする。今年クリスマス前にはサービスを開始する。

2社の提携は違法ダウンローダーの撲滅を目的としていて、違反者にはアクセス停止などの制裁を眼目に置いている。停止期間は数分から数日まで検討されていて、場合によっては停止などの措置は取られないかもしれないとヴァージン側は言う。

違反者の摘発は音楽レーベル側のデータをもとにするらしく、デンマークのモニタリング会社のDTecNetがすでにイギリス国内の権利者団体と契約して動いている。DTecNetはアメリカでは全米レコード協会とも契約している。

2009/06/14

世界著作権サミット

6月9〜10日にかけて、ワシントンDCで世界著作権サミットが開かれた。世界中のコンテンツ権利者が集まってどうやってデジタル化された世界を生き延びるか、というようなことを話したようだ。


議論項目は4つ。
1、コンテンツ業界の新しいビジョン
2、クリエーターや権利者が直面している問題
3、著作権業界の予報
4、クリエイティブエコシステムの確立

要はクリエーターが無料文化の蔓延するネットでどうやって報酬を確保していくか、ということだ。

全米映画協会副理事のFritz Attawayは、映画業界はもっとHuluのようなプロジェクトを推進していくべきだと語った。ただ違法ダウンロードを訴追するだけでは問題の解決にはならないと。

全米監督業協会のKathy Garmezyは、それでも訴追することに意味がないわけではないと話す。問題は権利者の利益保護ではなくて、創造行為の保護で、侵害は完全には断ち切れないことはわかっているが、クリエーターを殺すところまで行っては元も子もないとする。

スペインの権利者団体のEduardo Bautistaもそれがわかっていて、権利者側のこれまでの対応は十分な結果をもたらしていないことを熟知していて、その成果を考えれば解雇されてもおかしくないと話した。

上院議員のPatrick Leahy、John Conyers、Orrin Hatchなども出席し、フランスのアクセス遮断の制裁を含んだ法律の可決を自国でも可能にすべきだとの見解を示した。

結論として、違法コピーは甚大な危機で、止める必要がある、その策としてISPとの連携を強化していくこと、その上でHuluなど新たな仕組みを作っていくこと、などが出たが、目新しい議論はなかった。

2009/06/13

プライベートTorrentサイト

インド映画のBollywood、日本のアニメ、香港のカンフー、B級映画、そして無数のポルノ、どんなデジタルコンテンツを探しても必ずそれ専門のTorrentサイトが存在する。

そうしたサイトの多くは紹介制で会員を募っており、小規模でもあるためにコンテンツの権利者及び一般には発見されにくい。

フランスの3人の研究者がプライベートTorrentサイトを実際に利用し、研究結果を論文にして発表している。Torrentサイトと言えば有罪判決を受けたスウェーデンのPirate Bayがあるが、プライベートTorrentサイト運営者は世界中の注目がスウェーデンに集まったことで、さらに発見されにくくなったことは願ってもないことだろう。多くは登録できるユーザーの数に制限を持たせたり、活動のないユーザーアカウントが削除されると追加で新規登録を再開するなど、大きくなりすぎないことに気を使っている。

また、プライベートTorrentサイトはユーザーにシェア率を課す場合が多い。一定のダウンロードに対するアップロードの強制で、シェア率の低いユーザーは警告を受けたり、アカウントの削除をされる場合もある。

しかし研究結果ではそうしたシェア率はシェアされるファイル数の増加を妨げるため、サイト運営にとってはいい結果をもたらすとは言い切れないとしている。

それでも何も規制をかけない大規模なTorrentサイトのほうが上手く機能するとも言い切れない。プライベートサイトは大規模サイトで漏れているようなニッチコンテンツに適している。

大規模なサイトで好きなコンテンツが見つからない場合、プライベートサイトに行けばいいかも知れない。ただ、規制やルールは多いし、見つかりにくい。

2009/06/11

オンラインジャーナリズムの試み

ウェブ上のニュースは無料だという認識はもう揺るぎなきものになりつつある。ウェブ上の、どころかニュース自体が無料であるという認識があっても不思議はない。デジタル化はコンテンツの無料化を否応なく推し進める。日本の新聞社をはじめテレビ局などのメディア業界がデジタル化に積極的でなく、未だニュースが紙面で届けられる形態が主流であることは、ある意味功を奏していると言える。それも四半世紀もすれば生き残れないことは誰の目にも明らかなはず。

Washington PostのメディアコラムニストのHoward Kurtzが、新聞社はアメリカの自動車産業のようで、新技術に対して積極的にビジネスを開拓してこなかったことが今日の苦境を作り出していて、新聞社はバカでデブで怠惰だと辛辣に批判している。過去100年以上もニュースを独占して販売してきた新聞社のそうした保守的なところは、致し方ないとも言える。

そうしたプロのニュース作成集団のノウハウが、ハゲタカのようなブログやポータルサイトによって消滅してしまうという危機感は世界的に心配されていて、寄生虫が寄生する大元を食い潰せばプロ制作の価値に気付くだろうとも言われている。

それでも新聞社はただ食い潰されるのを待っているのではなく、新しい生業の形態を模索している。マードックは携帯配信にニュースの課金制度を定着させると発言している。

ノースウェスタン大学のジャーナリズム学部では、ジャーナリズムとコンピューターサイエンスを融合させた学位を用意して、すでに卒業者をChicago Tribuneに送り出している。ウェブの技術にジャーナリズムが先手を打てるように、教育現場のレベルから試行錯誤するというもので、DiggProPublicaEveryBlockPolitiFactなどのサイトはその試みで成功している。

True/Slantでは、名前だけでなく写真も出すことが主流になりつつあるオンラインジャーナリスト(記事の執筆者)のブランドを作ることができる。ニュースが主体なのではなく、ジャーナリスト個人が持つ知識や信頼性、専門性でニュースを読ませるという試みだ。新聞社はスタッフのリストラを進めており、フリーランス化したジャーナリストは増加している。そうしたジャーナリストにビジネス意識を持ってニュースを書かせるものだが、ジャーナリストの倫理が崩れやすい仕組みでもある。

2009/06/10

EU議会選挙とスウェーデン海賊党

日曜日にEU議会選挙が終了し、数週間も前から予測されていたようにスウェーデンの海賊党が議席を得た。スウェーデンにあてがわれた18議席のうちの1議席だが、党は勝利を宣言している。

海賊党は2006年に結党されて以来、党員は微増していたが、ファイルシェアリングサイトのPirate Bay裁判が世界中のコンテンツ業界で騒がれたことが功を奏して一気に支持率を上げた。スウェーデン国内の7%の投票を得て、国内第3の党に成長した。

海賊党はPirate Bayとは無関係であるとしているが、サイトを承認している。Pirate Bayの被告の弁護士は裁判官が権利者団体役員であったことを理由に再審請求していたが、旗色は悪い。裁判所は、裁判官の兼職は著作権の知識を深めるために必要だと理解されるべきで、判断に問題があったことの証拠にはならないとした。裁判所は完全に権利者側の意向に沿った判断をしているが、海賊党は今後この流れを変えることができるだろうか。

海賊党の公約は、著作権法の大幅な改正、特許権の撤廃、そしてオンラインプライバシーの向上で、特に著作権は、非営利目的の著作権保護されたコンテンツの利用は自由にすべきとしている。

今回のEU議会選挙の投票率は、過去最低だったようだ。27カ国のEUメンバー全体で42%。スロバキアは最低でわずか19%だったようだ。ドイツでは投票の義務化させ、罰金制度の提案がなされている。投票者はEUの重要性は認識しているものの、投票することの重要性を各政党が説得し切れなかったようだ。各国は問題があるとEUに問題転嫁する癖もある。

また、未曾有の経済の停滞で投票者は保守政党に傾いたことが共通して見られた。極右政党が善戦したのはオランダ、オーストリア、ハンガリーなど。メンバー各国の有権者がどれだけ似た問題意識をもつようになったかと示してもいる。グリーン党もまた善戦した。有権者は今回の不況はただ経済的なものだけではなく、経済成長至上主義に問題があるのではとの認識が背景にあるのではと分析されている。


2009/06/08

ソーシャルメディアの将来

先日アメリカで急成長しているマイクロブログサービスのTwitterが何故そんなに凄いのか、タイム誌が記事にしているのを紹介したが、その手放しの褒め方に疑問を呈する記事を色々と見つけた。

ウェブが個人にメディアを与えたことで、個人は世界に向けて情報を発信することができるようになり、スタートラインは大手企業と互角になった。ウェブ上にアップロードされる情報量は加速度的に増加している。SNS、ブログ、そしてTwitterのようなマイクロブログがそのインフラを提供している。

十分想像できることだが、ブログもSNSもマイクロブログも、大部分のアカウントは活動していない。ブログ検索サービスを提供するTechnoratiによれば、インデックスされている1億3000万個のブログのうち、わずか8%しか直近3ヶ月以内に更新されていない。95%のブログはウェブ上に手つかずで放置されている。

今勢いのあるTwitterも、10%のユーザーが90%のコンテンツを生み出している。Twitterユーザーの半分は2ヶ月に1回しか投稿しない。ネットユーザーのほとんどはGoogleなどの検索エンジンを使う。海外ではGoogleの検索エンジンシェアは圧倒的だ。しかしネットユーザーのほとんどがTwitterを使うようになるわけではない。

Twitterはひとつのソーシャルメディアであって、登録ユーザーが2億人を超えたFacebookと同じだ。問題はソーシャルメディア同士でアカウントの共有ができないということ。ひとつのアカウントでソーシャルメディア間を移動できるようでなければ、タイム誌が書くように我々の「生き方」を変えるようにはならない

Googleはソーシャルメディアの脅威を知ってか、独自のソーシャルメディアをスタートさせた。Waveがそれで、サービスごとにユーザーが棲み分けられる現在のソーシャルメディアをひとつにしようという試みだ。TwitterとFacebookに焦点を合わせたサービスで、エンジニアが新たなTwitterやFacebookを組み立てられる。ユーザーコンテンツは許可制で誰からもアクセスが可能になる。

Googleのイマジネーションは新たなウェブの世界を具現化するか。

2009/06/06

全米レコード協会にISPが協力しない理由

昨年12月、RIAA(全米レコード協会)は違法ダウンローダーに対処する方針を変えた。それまでダウンローダー個人を対象に個別の訴訟を起こしてきたが、批判が相次ぐ上に有効な防止策とはならないこともあり、協会は個人にネット環境を与える大元のISPと協力して違反者を防止する策を取るとした。

内容としては、ISPが違反者に対して“段階的な対応”として警告をする。警告を聞き入れずに継続して違反する者に対しては、一定期間アクセスを停止するというもので、フランスや台湾などで可決されたスリーストライク法そのものだ。


それから6ヶ月。協会の計画に賛同するISPは出ていない。協会はほとんどのISPに対して、ニューヨーク州の司法長官の事務所を通して賛同するよう促し続けており、協会のスポークスマンは複数のISPが過去6ヶ月間で50万通の警告を違反者に送ったと言う。警告のみで十分な防止策となるということかも知れない。

協会の言おうとしていることは、つまるところアクセス遮断は必要ないということで、一部の音楽レーベルの発表と違うことになる。協会は悪質な違反者は警告ぐらいではダウンロードを止めないと信じている。

それならば、何故協会はわざわざ6ヶ月も前に発表したのか。協会に批判的な評論家は、これまでの個人を対象とした一般にひどく不人気な個別訴訟を水に流したいのではないかと言う。過去5年間で3万件を超える訴訟は、協会に多大な訴訟費用を残し、違法ダウンロードの防止策としても有効だったとは言い難い。

TorrentFreak.comのErnestoが言うには、一部のISPはずっと前から自発的に違反者に警告作業をしてきたのであって、協会の発表に目新しいものはひとつもないらしい。

協会はニューヨークの司法長官にISPを動かせたいのだろうが、司法長官にそれほどの政治力はないし、ISPが法律に違反しない限り何もできない。DMCA法にはISPが警告をしなければならないとは書かれていない。

連邦議会ではISP関連団体の政治力の方が協会よりも勝っている上に、一般の協会への批判は無視できない。

ISPはP2Pユーザーにブロードバンドアクセスを販売することでビジネスを拡大してきた経緯がある。見返りなしではアクセス遮断には決して同意しないだろう。


2009/06/05

Twitterが「生き方」を変える

Twitter、アメリカのマイクロブログだが、このサービスの何が凄いのか、何が面白くて自分の朝食のメニューを「フォロアー」にいちいち知らせなくてはいけないのか、よくわからない人も多いと思う。

あの堀江貴文がTwitterを始めて、2000人がフォローしたというニュースもあったから、日本でも使っている人も少なくないようだ。


TwitterはBlogger.comを始めたEvan Williamsが2年前に立ち上げた。当初ブログというものが脅威だと捉えられたのは、読者のアテンションスパンが短くなり、長文の記事や本を読まなくなるのではないか、というものだった。Twitterは長くても2文しか書き込めない。

Twitterユーザーが発見したのは、友達が朝食に何を食べたか、というような些細な出来事を知らせるということに思いがけない深さがあったということだ。友人と会話する際、調子どう?という感じでなにげなくその人が何をしているか聞くことが始まりであることが多い。Twitterは質問することもなく、その答えを提供している。つまり、人は友人が何をしているか、近況を知りたがるのだ。

更にミーティングやカンファレンスでTwitterを導入することで、その会議に出席している人以外の不特定多数のユーザーがリアルタイムで参加することができる。理路整然とした議論という形ではなく、ラフな会話のスタイルでジョークなども混ざったそれらの投稿は、全て合わせると膨大な量になり、リアルタイムのみでなく後で議論がウェブ上で続く。

ニコニコ動画にリアルタイムコメントができるが、ひとつの動画についてのリアルタイムコメントでは、参加するユーザーの範囲は狭いが、Twitterはほとんど全ての事柄についてリアルタイムで、コメントではなく「会話」ができる。2ちゃんねるに近いが、TwitterはモバイルやPCを使うすべてのユーザーが「今現在」を共有する。モバイル画面で2ちゃんねるが可能なのだ。
2ちゃんねるのスレッドはひとつのテーマで立てられるが、Twitterはユーザーそのひとの人物中心だから、匿名性がない。よって著名人のフォローが自然と多くなる。

ネットが個人にメディアを与えることで、国民全体がひとつの出来事をシェアするということが少なくなったが、Twitterをそれを可能にしている。シェアするだけではなく、それについて会話をする。もちろん誹謗中傷めいた幼稚なものも多いが、逆に真剣な会話も存在する。

また、Twitterの投稿でウェブのリンクを張ることも多く、かつてGoogleに独占されると見られていたウェブトラフィックは、リアルタイムウェブからのものが増加している。Googleの検索順位は被リンクの数を見るため、古いページが優位であることが多く、「今現在」何が話題であるのかサーチするには適していない。

Twitterの新機能やアプリケーションはTwitterがビジネス戦略を立てて作ったものではなく、Twitterユーザーが作ったものだ。Twitterを使うビジネスもどんどん増加し、自然増殖している。

機能が増えることで、ユーザーはその機能でできることを勝手に創造する。モルドバ共和国の反共産党運動もTwitterではじまったし、中国ではそうした政治的な運動を心配して天安門事件の20周年の前にTwitterの使用が禁止された。将来、あらゆる情報チャンネルがTwitter化することも十分にあり得る。検索も、広告も、ソーシャルネットワークを中心に行われる。




2009/06/04

P2Pユーザーはハリウッドの最良の友

オープンソースのBitTorrentクライアントであるVuzeの開発元が、P2Pダウンローダーは貧乏で無料狂で反社会的だという世間の認識を覆そうとしてある調査を行った。


調査は18〜44歳の一般ネットユーザー606人とVuzeユーザー693人を対象に行われ、Vuzeユーザーが映画館で映画を見たり、映画をレンタルしたり、DVDを買ったりすることが一般ネットユーザーよりもはるかに多かった。

VuzeのCEO、Gilles BianRosaは、P2Pダウンローダーは「無料」にこだわっているわけではなく、価値感の問題だと言う。映画は基本的にDRMによって保護されていて、価格も非常に高い。

DVDもDRMで保護されているが、ユーザーがに与えられたコントロールの幅は大きい。映画のオンライン配信がユーザーの見方や楽しみ方を規制で縛り付けるなら、そこに魅力はなくなる。つまり、ユーザーが欲しているのはコンテンツを自由に享受できること。

よって、DRMはほとんど意味をなしていない。違法コピーをするユーザーを防ぐ効果よりも、一般の合法的に購買するユーザーの邪魔をしている。

音楽レーベルはこの間違いに気付き、すでにコピー防止機能を施していないし、音楽配信サイトにも積極的に音楽を提供している。ライセンスの供与にも積極的で、その条件にも良心的だ。

Gilles BianRosaは、映画業界も著作権保護を強化するのではなく、デジタル配信などの実験を繰り返して、オフラインだけでなくオンラインでも収益の計れるモデルを確立すべきだとしている。

2009/06/03

GMとマイケル・ムーア

GMがついに倒産する。日本でも「バカでまぬけなアメリカ人」や「華氏911」などのドキュメンタリー映画でおなじみのマイケル・ムーアは、GMが本拠地を構えるデトロイトのあるミシガン州フリントの出身で、GM関連工場が主な産業のその街の、GM不況をモロに受ける悲惨な状況を間近で見続けてきた。そのムーアが心境を寄稿している

今回、著作権とはほとんど関係ない話になるが、個人的に興味が深いので取り上げることにする。

「GMの生誕地であるフリントは現在、住宅やビジネスの40%がもぬけの空で、不安が充満している。GMは買って数年で壊れるような車を作り続け、消費者が求める燃費の良さや安全性、そして快適なドライヴィングを無視したおかげでGM自身が壊れるはめになった。ドイツ車や日本車を劣っていると信じ続け、労組化した従業員を罰することのみ考えてきた。

80年代には生産拠点の多くをメキシコに移し、数万人のまじめに働くアメリカ人の生活を破壊した。多くのアメリカ中間層の生活を破壊しておいて、誰がGMの車を買うことができると思ったのだろうか。

今、GMの臨終を目前にして、あえて言うが、喜びを禁じ得ない。フリントという僕のホームタウンの失業率が悲惨な数字になって、アル中、離婚、ホームレス、薬物中毒、精神疾患などの問題が僕が一緒に育った人たちに降り掛かることが喜びではない。21000人のGMの従業員が新たに解雇されることが喜びでもない。

そうじゃなく、今じゃ政府が車を作る巨大企業のオーナーだ。誰が5兆円の税金を死ぬ企業に与えることを望む?GMを救う唯一の方法は、GMを殺すことだ。しかし工業インフラを維持することは最優先課題になる。これから必要となる高速鉄道や新エネルギー産業を生産するインフラは、GMが取り残したものでなければならない。

真珠湾攻撃からすぐの1942年にルーズベルト大統領はGMの工場を銃や戦車やマシンガン製造工場へと転換させ、国家的な生産活動で戦争に勝利した。今、新しい戦争で新しい転換が求められている。

今度の戦争の戦場もふたつ。ひとつはデトロイトのコーポレートリーダーによる環境破壊。デトロイトが作ってきた自動車は地球や生物にとって、ダガーナイフのようなものだった。もうひとつは石油会社による資源枯渇。彼らは我々に資源はまだまだあると洗脳するが、実際は20〜30年で枯渇する。石油のための殺し合いがエスカレートする。

100年前、フォードが提案した自動車は人類に様々な恩恵を与えてくれた。それもすべて終わりだ。コンバスチョンエンジンに別れを言うときだ。」



2009/06/02

テキサスでブロガーが拘置される

Anna Nicole Smithが2年前に死んだとき、アメリカでは大きく報道されたものだが、彼女の母親を巡ってテキサスのブロガーが裁判所命令に従わず拘置されている

Anna Nicole Smithは雑誌プレイボーイのモデルで、1994年に当時89歳のテキサスの石油会社の重役と再婚した。当時Anna Nicole Smithは26歳で、年の差は53歳。当然夫が死んだ後の遺産相続が目当てだと騒がれたが彼女は否定し続けた。

重役の夫が1年後に死んだあとすぐに、Smithと重役の息子との間で1600億円の遺産相続を巡って最高裁まで争ったが、Smithの名は遺言にはなかったこともあって最後まで相続の決着がつくことはなかったが、別件でSmithは約400億円を勝ち取る。2007年、Smithはホテルで意識不明の状態で発見される。睡眠薬など複数の薬の服用が原因とされた。

このSmithについて、母親が義弟と結婚してSmithが幼い頃に虐待したなどの書込みを自分のブログにしたリンダル・ハリントンが、母親に名誉毀損で訴えられた。裁判官はハリントンのPCを提出するよう命令するが、盗まれてないなどと言い訳をして拒否したため、拘置された。

母親が名誉毀損で提訴したのはハリントンだけではなく、有名なラジオDJのハワード・スターンやCBS、さらにSmithの娘の父親であるラリー・バークヘッドを含む。母親がSmithの娘の親権を得て約100億円の遺産を相続を阻止することが目的だったと見られている。

ハリントンの拘置は4日間で解放されるが、ハリントンはただ意見を書いただけで、Smithの娘の遺産のことなどは知らないと言っている。更にPCは本当にないのだから提出できないとして、7月2日の再提出期限を守りそうにない。

ブロガーが逮捕される事例は年々増加傾向にあり、ワシントン大学の調査ではブロガーの逮捕は2006年から3倍増しているらしい。