ダウンロードの10年間 その2:iPod
カナダのニュースサイト、theglobeandmail.comの特集「ダウンロードの10年間」の第2弾は、アップル社のiPodを取り上げている。重要なポイントのみ要約するが、全文はこちらからどうぞ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2001年10月23日、アップル社のスティーブ・ジョブズはジャーナリスト達にはじめてiPodを披露した。ジョブスのジーンズのポケットからスラリと出したその機器は、ジャーナリストの期待を超えるものではなかった。
翌日、ニューヨークタイムスはビジネス欄の8ページ目に記事を書いたが、扱いは大きくはなかった。当時のMacPCの市場シェアは5%でしかなく、マイクロソフトに独占され、アップル社の株価も低空飛行を続けていた。iPodはMacでしか音楽を入れられず、その事実がある限りiPodはエキサイティングなものではなかった。
しかし、その後のコンテンツ業界の変遷はiPodの先見性を見事に証明してみせた。音楽に限らず、映像や文学、デジタル化できるすべてのものは、P2Pシステムの登場によりどんどん低価格化していき、エンターテイメントを享受するための対価は限りなくゼロに近づく。無料という最大の敵と戦うことをコンテンツ業界は新たに宿命付けられた。
コンテンツを製作し、製品化して流通させる一連のコストがなくなると同時に、小売店などは淘汰されていった。音楽小売りのWorld MusicやTower Record、新聞社のSeattle Post IntelligencerにRocky Mountain News、レンタルチェーン店のBlockbuster、消費者の「無料」という価値感に抗った会社に潰れるケースが多いし、倒れかけている会社はなお多い。
「無料」の価値観に対抗せず、消費者の求めているものの先を読み、サービスを打ったアップル社は今や巨大なエンタープライズと化した。企業価値は約11兆5000億円、デジタル音楽プレーヤー市場の70%を得とくし、地球上でも最も強力なIT企業のひとつだ。
ISPはブロードバンドの普及で体力をつけてモバイルネットワークに乗り出し、PCメーカーやソフトウェア会社、更にマイクロチップ製造会社は、消費者のもっと膨大なデジタル情報を素早く安価に手に入れられる電子機器を、との消費者需要に後押しされて波に乗る。
消え行くビジネス、力付くビジネスの差は、デジタル技術を恐れず、無料の価値観を受け入れたということか。
レコードからカセットテープ、カセットテープからCDへの技術革新に対して、音楽業界はコントロールできた。その消費者に対して持っていたコントロールの力が、デジタル化、ファイルシェアリングでなくなっている。
2000年から2008年までの約8年間で、世界の音楽セールスは3.6兆円から1.8兆円へと半減している。デジタル配信でダウンロード販売されたのはそのわずか20%。ネットからダウンロードされる音楽の95%は違法だ。音楽レーベルは著作権侵害容疑で違法サイトを追う一方で、リストラを進めて生き延びている。かつて持っていたような大量のアーティストを抱える余力はない。製品化と流通販売インフラを支え切れていない。レーベルは違法に入手される質の低い音楽に消費者はなびかないと見ていたが、消費者は質よりも無料を取った。
アップルは、こうした違法で無料の音楽を享受する音楽ファンでも、楽しい音楽視聴体験を提供できればそれに対する対価を支払う気があると見た。本当に質の高い音質、超早いダウンロード、超早いペイメント。音楽ダウンロードは消費者にとって便利で楽しい体験であるべきで、無料で入手できる代替品があったとしても質が悪くて遅くて楽しくなければ消費者はなびかない。
iTuneとiPodは、「無料」にチャレンジして、勝利した。

0 件のコメント:
コメントを投稿
登録 コメントの投稿 [Atom]
<< ホーム