2009/04/18

既存価値への静かな抵抗

オーディション番組というジャンルと言ってよいだろう。アメリカで人気のあった「アメリカズ・ゴット・タレント(America's Got Talent)」という番組のイギリス版で、「ブリテンズ・ゴット・タレントBritain's Got Talent」という勝ち抜きオーディション番組がある。とりわけ、2007年にこの番組で優勝し、携帯販売員からオペラ歌手になったポール・ポッツPaul Potts氏(38)の成功神話は、日本でも話題となり、昨年には、日本でもリサイタルが開かれたり、CMで起用されたりと一躍時の人となったので、その出自の番組であると言えばわかりやすいかもしれない。

ポッツ氏が当番組で最初に登場した回の動画が、youtubeにアップされているが、この再生回数は、現在4500万という数値を記録している。服装もさることながら、なによりお世辞にも格好よいとは言えないルックス、さらにはもう既に若いとは言えない年齢に比して、美しい歌声と、本職のオペラ歌手並みの声量によって、会場の聴衆と審査員を圧倒した様子が窺われる。


いま、ポッツ氏の動画と同様の反響を得て、空前の勢いで再生数を伸ばしている動画がある。この動画の再生回数は、現在、2500万を超えている。投稿後一週間経過時の記録であることを考えれば、これもまた大変な反響であると言える。

このスーザン・ボイルSusan Boyle氏(47)という女性を映した動画は、同じく件の番組「ブリテンズ・ゴッド・タレント」の模様を伝えた内容である。そして、同様に「服装もさることながら、なによりお世辞にも格好よいとは言えないルックス、さらにはもう既に若いとは言えない年齢に比して、美しい歌声」を持つ彼女の歌唱に、会場の聴衆と審査員を圧倒した様子が窺われる。

この種のオーディション番組の趣旨は、在野に埋もれている才能を発掘するということであり、番組内で応募者によって卓越した才能を発揮することが本旨なのだろうが、その目論見としては、未だ世に出ていない原石を探し当てるという、殊に若い才能の出現を暗に期待するものであろう。

例えば、日本における往年のオーディション番組、「スター誕生」におけるように、素人でありながら、当世的な美貌あるいは、コケティッシュな容貌を持っているということが(歌唱力以上に)視聴者への訴求力としては強いであろうし、あるいはまた、上記「ブリテンズ・ゴッド・タレント」の他の応募者の例として、若い又は幼い年齢でありながら、卓抜な歌唱力を有しているという天才性を示すなども、聴衆の感興を期待できる。事実、同番組でボッツ氏と共にファイナルまで勝ち進んだコニー・タルボットConnie Talbotちゃん(6)はその典型的な例で、youtubeにアップされた動画の再生数は4200万という数値を記録しており、優勝したボッツ氏に引けをとらない人気動画となっている。

そういう点からすれば、ボッツ氏とボイル女史の例は、番組としても一種想定外の事態なのではないだろうか。また、この種の番組の典型から外れている点が、大きな反響を呼んでいる要因とも言える。

このことについて、ニューヨークタイムズの記事でも、「若さと美しさに価値を置く世界のルックス主義・年齢主義に打ち克つ勝利(her triumph over looks-ism and ageism in a world that so values youth and beauty)」という、より大きな視点を提示している。

この既存の価値観への抵抗という視点は、例えば、グーグルの種々のサービスが巻き起こしている世界規模での驚きと困惑、そして混乱に見られるように、前衛を突き進むインターネットの世界好みの構図と言えるのではないだろうか。そして、世界中の人々も、この構図を密かな楽しみとしているのではないか。

ボッツ氏とボイル女史は、静かな抵抗を成就させたのかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム