デジタルコンテンツでよろしく
ネット空間におけるエンターテインメント業界の状況を鑑みると、「デジタルコンテンツそのものの対価」で、いかに収益構造を確立していくのが困難であるかが窺われる。ウェブ通販を絡ませた「現実物」の取引仲介という形では、例えば、アマゾン、楽天などの例を挙げるまでもなく、ほぼ収益構造は確立し、ビジネスとして充分に成り立っているようである。
しかし、ネット上で取得できる情報(デジタルコテンツ)が、基本的に無料として認識されている状況では、あらゆる分野で、「デジタル化されたコンテンツそのものの対価を徴収する」という仕組みでは、充分に収益が上がるビジネスとして確立されてはいないように思われる。このモデルで成功しているエンターテインメントは、ほとんど唯一アダルトのジャンルであるが、この場合も、特殊な条件(例えば無修正)において、更には、月額の会員料を徴収するという形で成立していると言われており、コンテンツそのものの対価だけで、コンテンツの製作費用や、サイトの運営費、その他諸々の販管費等々を回収できるかというと難しいだろう。
この点で、佐藤秀峰氏の試みは注目に値する。氏は、研修医を主役とし、医療業界全体に潜在する問題について、丹念に掘り起こし描いた作品「ブラックジャックによろしく」で、一躍ベストセラー作家になった漫画家である。元々、作品を発表していた講談社「モーニング」編集部との間で問題を抱え、その後、公表の場を小学館へ移したものの、最終的には、自主運営サイトでの作品発表という道を選んだ。それが上記のような「デジタルコンテンツ」のダウンロードに対する対価徴収による収益モデルであった。
プロの漫画家が、出版社を川上とする既存の出版流通から飛び出して、自前のサイトで作品を発表し収益を上げていこうという今回の試みの行方は、漫画というジャンルに限らず、クリエイター主導により、このネット空間に新しい価値観に基づくシステムを構築しようとしているという点でも、重要な意義を持っているといえよう。ただ、上記において付言したように、これまでのネットビジネスにおいて短いながらも蓄積された経験からは、デジタルコンテンツに対する対価徴収というビジネスモデルの成功は、現実的には、極めて厳しいと言わざるを得ない。
今後の展開としては、おそらく、累積したコンテンツを紙媒体に落とし込み、自身運営のウェブ上での通販や、アマゾンなどのウェブ通販と連携し、「現実物」を販売することも考えているのであろう。結果的に、二大出版社との間で問題を抱えてしまった氏の作品について(氏自身が望むかどうかは別にして)、日本におけるトーハン、日販の二大取次が扱ってくれるのかどうか。あるいは、書店との直取引ということも考えられる。営業については、出版営業代行の会社はいくらでもあるので、そういう会社と契約することもできるだろう。
いずれにしても、今後の行方を注視したいモデルケースであると言えよう。
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